美容業界で活躍されるビューティエディターさんやビューティライターさん、美容家さんなどをお招きして、彼女たちの美しさの秘密に迫る連載がスタートします。
二回目のゲストは、女性誌やWEBなどで多数の美容企画を編集・執筆されている入江信子さん。
ご本人が“冷静と情熱の間”と分析されるように、理論的、そして情緒的な文体を巧みに操る記事にはファンが多数。
今回は前後編に渡って、入江さんが考える『美容』に対する考え方やお仕事への哲学、彼女自身の美の秘訣について、お伺いします。

今回お話をお伺いしたのは……

入江信子

いりえ・のぶこ

ビューティエディター/ビューティジャーナリスト。化粧品会社、出版社勤務後、1997年に独立。出版界でビューティエディター、ジャーナリストとして活躍し、現在も女性誌、美容誌を中心に執筆、編集しつつ、広告業界でも活動している。ライティングが得意で、スキンケアに関する理論的な文章から、フレグランスなどの情緒的な文章、初心者向けの優しい文章まで多彩な文体を駆使。趣味の香港旅行、料理、フランス語を生かした仕事も。3人のビューティエディターによるクリエイティブユニット“un tiers(アンティエール)”にも所属。 http://un-tiers.jp/

インタビュアー

まえだ・みほ

国際基督教大学を卒業後、大手広告会社に入社。退社後、ビューティライターとして活動を開始。最新の美容事情や化粧品の製品情報に精通しながら、ファッションや演劇、ゲーム、マンガになど幅広い視点からビューティを分析するのが得意。各媒体で美容記事を執筆するほか、著名人へのインタビューも多数。

化粧品は情緒的なものでもあり、科学でもある。
その割り切れなさが面白さで、最大の魅力。

前田美保
入江さんには何度も取材をさせていただいていますが、意外と“ビューティエディターになられた経緯”みたいなものをお伺いしたことがなかった気がして(笑)。
改めて今回、お話いただいてもいいですか?

入江信子
はい。
大学を卒業してからメーカーに就職したんですけど、ちょうどその会社が化粧品事業に着手したところで。
そこで数年働いたのちに出版社にいくつか勤めて、フリーランスになりました。
私は文系出身なので、最初は例えば“界面活性剤”という言葉も知らなかったくらいでした(笑)。
真皮や表皮の存在も、最初の会社に入ったときに学んだのですが、「化粧品って意外と“科学”なのね」と思ったんです。
当時はもっと“情緒的”なイメージでしたよね。
春になったら口紅を買って、そういうCMもたくさん流れていたし。

前田
そうですね。
私は化粧品大好物だったので、よくわかります!(笑)

入江
私もそれに踊らされて買っていましたよ(笑)。
でも、化粧品のバックグラウンドというか、裏側に携わってみると、情緒的な部分だけではないんだということに気付いたんです。
そこからは化粧品に携わったりそうでなかったりするのですが、どうしても本をつくる仕事に関わりたかったので出版関係へ転職も経験して、32歳でフリーランスになりました。
そのときに「やっぱり専門があったほうが強みよね」ということで、女性が何かしら関わるモノの専門であれば、長く続けていけるかもしれないと思い、最初の会社で学んだ“化粧品”をエキスパートにしよう、と選んだ、という感じです。

前田
でもずっと続けていらっしゃったってことは、化粧品や美容というカテゴリーが面白かったんですね。
化粧品や美容というジャンルの、どこに一番惹かれたんでしょう? 私も30歳で転職して、もう20年近く美容に関わってきているので、自分自身にも問うている感じではありますが(笑)。

入江
さっきもお話したとおり、「化粧品は情緒的なものだ」と思っていたのに、最初の会社に入ったことで「化粧品は科学だ」と考え方を改めるに至りましたが、逆もまたあるんだなって思ったんですよ。
理屈だけで成り立っている世界でもないんですよね。
よく「効くと思って使わないと効かない!」みたいなことを言うでしょ? それに関しては、私自身ちょっと懐疑的ではあるんですけど、でも“思い込む”や“信じて使う”とか、あと作り手側も同じで「こうやって使ってほしい」という思いがあったりしますよね。
そこが理屈では割り切れないところで、反対に“割り切れるもの”というと“お薬”になってしまうんですよね。
効果が第一、ですから。

前田
なるほどー! なかなかそこまでじっくり考えることは少ないですが、改めてお話を聞いてみると納得です。

入江
だから原稿を書くときも、こんな成分が入っていますというのもきちんとお伝えしますが、それだけじゃなくて「こんな肌を目指しましょう」とか「こんな雰囲気になれますよ」「こんな女性にピッタリですよ」というような書き方もできるカテゴリーなんですよね。
理と情が半々というのが面白い世界ですよね。

時代が、そして化粧品が、進化を始めた時期、
それと伴走するように美容と向き合ってきた。

前田
そっかー! 確かにそうですね。
私は化粧品が大好きだったので、気が付いたらこの世界にどっぷり入っていたという感じだったんです。
右も左も分からず、ただただ化粧品愛だけでしたから、そこまで考えたこともありませんでした!

入江
あとね、もうひとつ。
私、20代の頃はすごくいい加減なスキンケアをしていたんですよ。

前田
私、即答してしまいますが、本当にそれだけは信じられません(笑)。

入江
(笑)。
なぜかというと、あんまり肌にトラブルがなかったんです。
ストレスを受けるとニキビができたりとか、乾燥することはありましたが、例えば“くすむ”という感覚は、正直に言うと若いときはまったく分からなかったんですよね。
私や前田さんってちょっとバブル世代じゃないですか? 美容液が登場したり、次から次へといろんなブランドが流行った時代なので、お手入れ方法としてはかなりめちゃくちゃだったと思いますよ。

前田
耳が痛い……(笑)。
私もトラブルがほとんどない肌だったので、おっしゃることはとてもよく分かります。
毛穴悩みは如実にあったんですけど、それはあくまでも肌質というか。
大きなトラブルはまったく感じないまま、確かにあらゆる化粧品をちゃんぽんしていましたね。

入江
だからこそ、自分が専門にしようと思ったときに、イチからちゃんと試すようになったら、肌は明らかに良くなったわけです。
30代というのはちょうど肌調子が下っていく時期だと思うのですが、そんなに大きな揺らぎもなく、むしろ成果が出たのでそれも面白かったんですよね。

前田
入江さんの話を伺うと、美容業界にいる方々は何かしら“美容に惹かれて”入ってきてらっしゃるんだなって改めて思います。
私も入江さんも、この業界長くなってきたと思うのですが、ココまでこの仕事を続けていられる、“美容に惹きつけられている理由”って何かありますか?

入江
多分、私がこの業界に入った時代はまさに“時代が動いている”という感があり、それまでは若い子ばかりが注目されていたのが、少し前に「29歳のクリスマス」というドラマが放映されるなど、ちょっと大人の女性が取り上げられ始めた時期だったんです。
一緒に時代が走ってくれていたというか。
それまでは“大人=おばさん”という認識でしたが、それが変化しつつありました。
化粧品業界でも同じような変化が起こっていて、シミもシワも“諦める”のではなく、それを解決していくスタンスへとシフトし始めた時代でしたね。
「今年最高のモノが披露されたから、もう来年はこれを超えることはないだろう」と思っていた美白製品が、翌年には確実に前年を超えるものが発表されるという劇的なことが多くあって。

前田
確かに! 毎年毎年新しい成分が発見され、新しい技術が応用されるなど、とにかく美容や化粧品に弾みがついていた時代でしたものね。

入江
あとは感触もそうです。
私が20歳の頃の日焼け止め……(笑)。
塗ると真っ白になるし、感触も悪い。
とりあえず「塗っておく」だけでしたが、最近はそんなもの、一切ないですよね? そういった進化に魅せられたという感じでしょうか。
特にドメスティックブランドの進化は見逃せなかった。
微に入り細に入り……。
日本人の細かい気質は化粧品づくりに向いているんでしょうね。

前田
その進化の流れに入江さんはガッチリ乗っていたんですね。

入江
本当にそうだと思います。

一見地味に見える化粧品にも、いいところが必ずある。
細かな違いを伝えていくのが、美容ジャーナリストの務め。

前田
入江さんが得意とされているのはやはりスキンケアですか? メイク記事もたくさん執筆されている気がしますが、スキンケアの記事のイメージがとても強くて。
ご自身が一番お好きなのはスキンケアですか?

入江
はい。
やっぱりそうかもしれないですね。
美容企画でスキンケアのアイテムをたくさん紹介するページがあるでしょ? 私、あのようなページを書くのも、実は大好きで(笑)。

前田
え? 本当ですか。
いわゆる“千本ノック”と言われている(笑)、手間暇がかかってしまうページなんですが。
たくさんアイテムが掲載されますから、書き分けるのも大変ですよね。
私はとても苦手……。

入江
プチプラから高級品まで色々あって、どのアイテムにも必ずいいところがあるんです。
昔、映画評論家に淀川長治さんという方がいらして、その方が「どんな映画でもきちんといいところがあるから、それをしっかり拾いたい」というようなことを言っていらして。
私もその考えにすごく共感しているんです。
化粧品には本当にたくさん種類があって、決して派手ではない地味なアイテムもたくさんあって、それらが他と同じに見えていたとしても、よくよく向き合ってみるとやはり特徴やいいところがある。
それを伝えていきたいし、それがピッタリな人も必ずいらっしゃるはずなんです。
だから、山のようなアイテムの細かな違いをきちんと伝えていきたいと思っています。

前田
なんだかウルッと来てしまいました……(泣)。
こういうジャーナリストの方にアイテムを解説してもらえるのは、本当に幸せですね。
いいところを見つける、伝えるべきところを伝える――。
これはライターとしても見習わないといけないスタンスですよね。
今猛烈に反省しています……(笑)。

入江
それができるようになってきたのは、フリーになってマーケティングや研究者の方々をたくさん取材させていただき、その知識が蓄積してきたからこそ、なんです。
まだまだもっとやらないとダメだとは思うんですが(笑)。
研究の方々を取材すると、すごく心が洗われる思いがするんです。
研究所というのは、どのメーカーさんもわりと都心からは離れた場所にあることが多くて、そこで何人もの研究者の方々が、何年も1つの研究材料と真摯に向かい合っていらっしゃる。
お話をお伺いすると、ご自分の研究に関して本当に詳しく、私たちが分かるまで話してくださいますし……。
本当に頭が下がる思いです。
やっぱりモノをつくっていらっしゃる方はすごいですよね。

前田
そうですね。
お粉ならお粉だけ、デリバリーシステムはデリバリーシステムだけ、という感じで長くひとつのことを突き詰めていらっしゃる方からお話を聞くと、必ず勉強になりますからね。
しかも、最先端の話を伺えますからね。
研究所の取材は贅沢な時間です!

入江
かつて、私の上司だった人が「情報はメーカーにあり」と言っていたことを思い出しました。
もちろん一般的な肌の仕組みや病気について聞くならメーカーより皮膚科医が最適だと思いますが、例えば、「どういうお手入れをしたら肌がキレイになるか」については、ずっと肌や化粧品のことを見ているメーカーに話を聞くほうが理にかなっていると思うんです。
昔は取材先と言えばドクターがメインでしたが、最近は積極的にメーカーに話を聞きに行きますからね。
もちろんドクターも変わってきていて、昔は「ニキビ? 化粧はしないで!」というのが当たり前でしたが、今はスキンケアやメイクを楽しみながらニキビも克服する方法を提案してくれるドクターが増えました。
少しずつでしたが、変化してきた時代をずっと一緒に走れてきた、というのが、今振り返ると、良かったのかもしれません。

前田
なるほど。
入江さんの歴史、しかと伺いました!(笑) 後編では、美界でも本当に常に話題に上がる“美肌の秘密”にもぜひ迫りたいです。
これ、みんながいつも聞きたがると思うんですが(笑)、今回も詳しく教えて下さい!

後編に続く